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「第1回 学生住宅コンテスト」を毎日新聞社と共催
最優秀賞(1点)賞状、賞金 30万円
大きなテーブルと軒下の家
江種 航(えぐさ・わたる)
関西大学 環境都市工学部 建築学科 4年
コンセプト
家にほとんどいない夫と家に常にいる妻。このような関係性の暮らし方はよくあることだ。そのような暮らし方においてまで閉じた家は幸せなのだろうか?ここ では住みながら開き、街の人が気軽に入ってくる。大きなテーブルと軒下の空間には人が集まり、生活に地域が入り込んでくる街のリビングのような家。
受賞コメント
記念すべき1回目のコンテストで、最優秀賞に選んでいただきありがとうございます。受賞を聞かされた時は、自分が最優秀賞を取れると思っていなかったので、非常に驚きました。自分が提案したものが評価されたのだとわかり、すぐに喜びに変わりました。
今回のコンテストでは「家をとことん楽しむ」がテーマだったので、家にほとんどいない夫とほとんど家にいる奥さんというよくある家族構成の家に対し、閉じきった家は幸せなのだろうか? という素朴な疑問から「住み開き」ということをメインテーマに設計しました。
家は周辺の環境の中に建てられるものなので、家の中だけが楽しいだけでなく、地域のリビングになるように設計しました。この家が建つだけで住人だけでなくこんなにも周辺の人たちも楽しめるということを提案できたのかなと思います。
受賞を励みに、今後も社会に対して自分がいいと思えるものを提案していきたいと思います。
優秀賞(3点)賞状、賞金 10万円
温室に浮遊する家
川名 恵祐(かわな・けいすけ)
東京都市大学 大学院 工学研究科 建築学専攻 修士1年
コンセプト
温室の上に住まう。この住宅は夏は床を高くし足下を開放する事で涼しく暮らし、冬はガラス戸を閉めて温室の上に暮らす。床下の熱交換と吹き抜けによる暖か な空気の流入により年間を通して快適な室内環境を可能にする。ピロティ(温室)には畑があり、世話をするためガラス戸の開閉という行為を日常の生活の一部 として取り入れる。それらの所作は日常の生活をしながら、環境負荷の低減に務める事となり、自己が自然の一部として生きることを顕在化させる。身の丈に あった省エネルギーな生活を過ごす事で、環境問題への意識化が期待できる。また四季折々の作物を家族で育てる事により、農作業や食事を取る等の同じ経験の 共有や、四季という時間を身体的に体感し享受することができる。温室の上に住居を積層する事でより快適で、原初的でありながら刷新された住宅の提案であ る。
受賞コメント
このたびは栄えある賞を頂戴し、感謝と喜びの気持ちでございます。「温室の上に住まう」をコンセプトにした住宅です。夏は足下のガラス室を開放することで 熱を逃がし、冬は閉じきることで温室を作り、その熱を利用しながら暮らします。このガラス室では家族が食べる分だけの畑を備えており、日常生活の延長とし てガラス室を生活の一部として利用します。環境負荷の低減に務めることができ、身の丈に合った省エネルギーな生活を送ることが可能となります。これは温室 の上に住居を積層することでより快適で、原初的でありながらも刷新された住宅の提案です。
おばあちゃんの斜め帽子
井上 慧祐(いのうえ・けいすけ)
芝浦工業大学 大学院 理工学研究科 建設工学専攻 修士1年
コンセプト
昔から、屋根は住宅の傘でした。晴れの日は、日傘のように涼しい風が通り抜ける日陰をつくります。雨の日は、雨傘のようにみんなを雨から守る居場所をつくります。軒先を時には一人で、時にはみんなで楽しみながら暮らす住宅を提案します。
受賞コメント
軒を主題にして設計しました。昔、祖母の家の軒先でくつろいだ体験がベースです。住宅の中に平面的、断面的に中間領域を作り出して、街と「いい関 係」をつくりながら、家を楽しむというものです。住宅は木密地域の京島に位置し、三面が道路に囲まれた敷地です。それぞれの道路に面する軒の高さを少しず つ変えていくことで、家を楽しめる居住環境や街との付き合い方を提案しました。
第1回の開催で優秀賞という大きな賞を受賞できて大変嬉しいです。しかし、最優秀賞に一歩届かなかったことが非常に悔しいです。この経験をこれからの修士の設計の活力にしていこうと思います。
dekoboko
神戸 寛貴(かんと・ひろき)
東京大学 大学院 工学系研究科 建築学専攻 修士2年
大石 幸奈(おおいし・ゆきな)
東京大学 大学院 工学系研究科 建築学専攻 修士1年
コンセプト
現在の住宅はODK型で示されるように、家族の空間である共の領域と個人の部屋である個の領域に分割されており、家族の活動が分断されている。 dekobokoでは作業場、休憩、料理の各々の活動の場をリビングに溶け込ませることで、それぞれの活動をしながら、家族が交わっていく。そんな家族で 一緒に生活することをとことん楽しむ家を提案する。
受賞コメント
現在の住宅は「個の空間」と「共の空間」が分断されています。作業、休憩、料理など個の活動の場をリビングに溶け込ませることで、それぞれが活動をしながら家族が交わるような住宅を提案しました。
具体的には在来工法のモジュールを生かし、床や柱梁といった建築の要素に家具や建具のさまざまな機能を付与すること、地下に掘り込 むことで1年を通して安定した地中熱の影響を受けやすい場所と外部の環境を取り込みやすい場所をつくることの二点を行っており、居住者のライフスタイルに 合わせて住宅全体を使いこなすことのできる空間構成で、さまざまな活動柔軟に対応できるようになっています。
HINOKIYA賞(1点)賞状、賞金 10万円
ヤドカリの家
西潟 健人(にしかた・けんと)
日本大学 工学部 建築学科 4年
コンセプト
ヤドカリは成長に合わせて住まいを変える。
一方、人間は住まいという名の貝に縛られ生きている。
しかし、ライフステージに合わせてニーズは変わる。
ならば、我々も’ヤドカリ’になろう。
受賞コメント
この度は、HINOKIYA賞をいただきまして、誠にありがとうございます。
テーマ「家をとことん楽しむ」を見た際に、祖父母と孫が庭で遊ぶ、近所の人と縁側でお茶を飲む、家族全員で星を眺め語り合う、この ようなイメージが強く見えました。これにより、自分が考える「楽しい家」とは、人と人との交流が紡ぎだす物語の誕生を助長・継承していくものと定義し、コ ンセプトとしました。
継承のためには、何世代にも亘って家族と共に過ごせる家でなくてはならないとの考えから、ライフステージの切り替え時に家を住み替えるという構想にたどりつきました。
本構想は、成長に応じて貝を住み替えるヤドカリからヒントを得ました。とことん楽しんで設計した作品です。
表彰式
第1回学生住宅デザインコンテストの表彰式が東京都千代田区のパレスサイドビル内レストラン「アラスカ」で行われた。最優秀賞、優秀賞、 HINOKIYA賞には賞状と賞金が、入選には賞状が贈られた。原敏郎・毎日新聞社常務が「このコンテストを通じ、日本の、世界の建築界を支える人材を輩 出していきたい」とあいさつ。最優秀賞を受賞した江種航さんが「第1回の最優秀賞に恥じないよう、建築界に貢献していきたい」と述べた後、自らの作品「大 きなテーブルと軒下の家」のプレゼンテーションをし、大きな拍手が贈られた。受賞者からは「実は賞金の一部を先に使ってしまった」などという「告白」も飛 び出し、和気あいあいとしたムードに包まれた。
引き続き受賞パーティーが行われ、受賞者、審査員らが作品について語り合った。
選考経過
応募作品は200点(応募者の所属は大学院・大学55校、専門学校など24校)だった。事前審査として、5人の審査員は応募者から寄せられた提出物 (説明文、平面図、外観パース図など)をチェックした。テーマである「家をとことん楽しむ」工夫がある▽独自性▽快適性▽省エネ性など、6項目の審査基準 に沿って採点し、各自が最終審査に残したい10点を選出した。その結果、39点が最終審査へ進んだ。
最終審査では、合計得点が上位だった8点に、複数の審査員が推す4点を加えた12点を中心に選考が進んだ。最初に投票で5点に絞り、論議を経て再投票を行い、2点に絞り込んだ。さらに論議を行い、コンセプトの明快さやデザイン性などの観点から最優秀賞が決まった。
優秀賞と入選は残る10点を対象に審査員が手持ちチップを作品前に置く方式で改めて投票を行い、順次決定した。
審査講評
シンプルなテーマながら、思わぬアイデアも多く、楽しく審査をさせていただきました。このテーマの解決には、ハードとソフトの両面の計画が必要で す。ソフト面では「楽しみ方」の経験不足からか、心から住みたいと思える家が少なく、ハード面では建築のトレーニングを重ねているためか、高度な設計が多 く感心しました。ただ、オリジナリティーに欠けたものも多く、残念でした。
受賞した計画は、オリジナリティーとともに「この家に住んでみたい!」という楽しい情景が浮かび、住宅としての誠実な計画と評価をしました。家が建築的な装置だけではなくメディア的な役割を担い、人や地域とつながる可能性を垣間みることもでき、今後への期待を感じました。
最優秀賞の江種案は、空中に持ち上げられた大きな家を、もう一つの小さな家型が塔のように貫く提案で、小さな家型の周囲にアクティビティが展開し、 コミュニケーションの射程を多彩に変化させています。在来工法ではやや難があるものの、新しい技術を取り入れれば、可能性があるといえます。優秀賞の川名 案は、温室の上に居住空間を配置し、温室が環境調整装置としても機能する住まいを提案しています。立地の想定に疑問があること、「温室があることによる住 まいの変化」を表現しきれていないように思える点は、惜しいところです。
難しい問いかけに、どのような提案が集まるか、期待半分、不安半分でしたが、入賞案は異なるアプローチから可能性を提示してくれたと思います。
住まい設計の基本である「生活」の意味や、「木造軸組み構法」の可能性を、学生のみなさんが、新鮮な視点で真剣に考える機会に参加することができ楽しかったです。
「大きなテーブルと軒下の家」は、食事机の上さえ歩いて外部の半公共空間から塔の上のお一人様部屋までつなげる奇想天外の案ですが、 動線沿いに多様な活動領域が重なる楽しさや家型の魅力を再確認しました。「温室に浮遊する家」のように食空間を手掛かりにコミュニティや自然に家を開く例 や、東日本大震災を経て家族のつながりを見直す案、木造構法の可変性やグリッド状空間の魅力を追求する例も多くありました。難しい問題設定でしたが、多く の創造的提案があり、希望を感じました。
「家をとことん楽しむ」というのは、簡単そうで難しいテーマだったと思います。設計者によって様々な解釈が生まれるからです。特に「楽しむ」対象をどこに 定めるのかに関しては二つに分かれたように感じました。一つは建物の意匠やコンセプトに面白みを持たせて「建物自体を楽しむ」ことに主眼を置いた作品。も う一つはコンセプトの面白さに加えアイデアや工夫によって「生活する人が楽しむ」場所をつくるという作品です。もちろん、建築物としての楽しさに加え、住 む人の目線で楽しく豊かな生活が感じられる作品が高く評価されたと思います。単に家族が暮らす器に留まらず、地域へ開かれた機能を持つ趣旨の提案が多く、 若い人達の家に対する価値観を知ることができ、有意義でした。
最優秀作品は、大きな家を三角屋根の塔が貫くおおらかな造形と、一つ屋根の下に公共(ピロティ)と半公共(居間)、プライベート(寝室、浴室など) の三つの空間が無理なく同居している点が印象的でした。賑やかに暮らしをエンジョイする家族像が浮かび、「こんな家を訪ねてみたい」と思いました。
最優秀作品もそうですが、全体傾向として興味深かったのは「住み開き」、すなわち家の一部を開放し、近隣と交流を深める生活への憧れが強く感じられたことです。伝統的な半野外空間である縁側や軒下を取り入れた提案も目立ちました。
若い世代が思い描く「理想の生活」が今後、どのような建築に結実するか、楽しみです。